顔の半分が動かしづらい?
顔面神経麻痺とは
顔面神経麻痺とは、神経の麻痺によって、顔の半分の筋肉が正しく動かない状態を指します。
顔面が思うように動かないため、心理的なストレスの大きい疾患です。
原因を特定し、適切な治療を提供できるよう努めております。
顔面神経麻痺の症状
顔面神経麻痺は、通常顔面の左右どちらかに発症します。これにより、以下のような症状が見られます。
- 思うように表情をつくれない
- 目が閉じられず乾燥する、涙が出る、充血する
- 片側の眉が下がる
- 片側の口角が下がる
- 口に含んだ水が口の端からこぼれる
顔面神経麻痺の原因は?
顔面神経麻痺の原因はさまざまですが、脳出血や脳梗塞などが原因になる中枢性顔面神経麻痺と、中耳炎や聴神経腫瘍、耳下腺腫瘍、ウイルス感染などが原因の末梢性顔面神経麻痺に大きく分けることができます。耳鼻咽喉科では、顔面神経麻痺の原因を診断して、末梢性顔面神経麻痺であればその治療を行っています。
中枢性顔面神経麻痺との鑑別
顔面神経麻痺に加えて、ろれつが回らない、意識障害、手足の麻痺などの神経症状を伴う場合は、脳出血や脳梗塞などによる中枢性顔面神経麻痺が疑われます。耳鼻咽喉科を受診するのではなく、ただちに救急車を呼んでください。症状が顔面神経麻痺のみで当科を受診された場合にも、最初に理学的所見から中枢性顔面神経麻痺と末梢性顔面神経麻痺の鑑別を行います。
詳細な問診の聴取
難聴やめまい、耳だれの症状はないか、神経症状はないか、顔面や耳下腺部の腫脹はないか、頭部や顔面に外傷の既往はないか、中耳や耳下腺、脳疾患の手術や治療を受けていないか、顔面神経麻痺を繰り返していないか、などを問診することで、手術や外傷の影響や腫瘍性病変を鑑別し、必要であればCT検査・MRI検査を行います。
中耳炎や聴神経腫瘍、耳下腺腫瘍による顔面神経麻痺の鑑別
外耳と鼓膜を詳細に観察し、聴力検査を行い、頸部や耳下腺の触診によって、細菌性中耳炎や真珠腫性中耳炎、聴神経腫瘍、耳下腺腫瘍などによる顔面神経麻痺の可能性を検討します。
ベル麻痺とハント症候群
最も頻度が多いのが、ウイルス性顔面神経麻痺であるベル麻痺とハント症候群です。単純ヘルペスウイルスによるものがベル麻痺で、通常顔面神経麻痺以外の症状は認められません。水痘帯状疱疹ウイルスによるものがハント症候群で、難聴や耳閉感、耳鳴りやめまい感、外耳道や口腔内の皮疹を伴うことがあります。いずれも、疲れやストレスが誘因になって、体内の既感染ウイルスの再活性化が生じて、顔面神経麻痺を発症すると考えられています。
顔面神経麻痺の検査
顔面神経麻痺の程度は、顔面運動の左右差をもとに柳原法で評価し、治療法の選択、治療効果の判定に役立てています。発症後1週間は症状が増悪する場合があり、発症1週間ごろに軽症・中等症・重症の判断をします。また、純音聴力検査、耳小骨筋反射、眼振検査などの検査も行います。
末梢性顔面神経麻痺と診断し、治療を開始した場合でも、外傷のある場合はCT検査、腫瘍性病変の除外のためにはMRI検査を追加します。
麻痺の予後判断のために発症後7~14日くらいで電気生理学的検査(ENoG)を行うこともありますが、その際は連携病院に紹介します。
顔面神経麻痺の治療
薬物療法
ベル麻痺、ハント症候群に対する治療の基本は薬物療法です。顔面神経麻痺診療ガイドライン2023年版に準じて、ステロイド薬と抗ウイルス薬を投与します。ステロイド薬の治療は10~14日程度で終了します。
手術
全身麻酔下の顔面神経減荷手術は、外傷性の高度麻痺に対して、あるいはベル麻痺やハント症候群のうち保存的治療に反応が悪く、かつ電気生理学的検査で予後が悪いと判断された症例に行われることがあります。発症1か月以上経過した晩期の手術効果は低いと考えられています。
薬物療法の効果の乏しい重症例で、手術加療を検討される患者さんは、予後判断と手術適応判断のために連携する病院に紹介する場合があります。
リハビリテーション
リハビリテーションの方法は、急性期、3~12か月の回復期(慢性期)、12か月以降の生活期の大きく3つの時期に分けて行います。病的共同運動や顔面拘縮といった後遺症が生じないように、あるいは生じた場合に少しでも軽減するように、各時期に応じたリハビリテーションを指導いたします。
発症早期の治療開始が有効です
ステロイド薬は早期に投与するほど有効で、できれば発症当日や翌日、遅くとも7日以内にステロイド薬投与を開始することが望ましいとされています。発症14日以降のステロイド薬投与はあまり効果が期待できません。また、糖尿病などがあり、ステロイド薬の副作用で糖尿病の症状が悪化すると考えられ、外来でのステロイド薬投与が適切でないと判断した場合は連携病院に紹介いたします。
顔面神経麻痺に気づいた時には、先に述べた脳出血や脳梗塞を疑う神経症状がなければ、すぐに耳鼻咽喉科にご相談ください。